なぜこの研究をおこなったのか?

研究の背景・目的

仏像はインドまたはガンダーラで初めて作られたが、仏教の伝播にともない、後にはアジア各地で個性豊かな仏像が作られた【図1】。それらの仏像には、美術作品一般と同様、時代や地域による特徴的、類型的な様式が認められる。しかし、視覚経験の積み重ねによって形成される様式観は感覚的ないし主観的になりがちで、類似性の判断も相対的にならざるを得ないため、研究者間でも様式観を共有することが難しく、そのことが仏像史研究の進展にとって大きな障壁となってきた。

   

研究するにあたっての苦労や工夫

研究の手法

そこで本研究では、様式判断の客観性を求めるために機械学習の導入をめざした。ただし、様式判断の対象は、仏像全体ではなく顔に焦点をしぼることにした。なぜなら、ポーズや髪型、服飾は尊格(種別)による違いが顕著であるのに対して、顔であれば時代性や地域性により特化した様式判断が可能になり、機械学習に必要な作例数も確保できるからである。
また、2次元画像(写真)では、アングルや陰影など撮影条件の違いが様式判断に影響をおよぼす可能性があるため、3次元データによる解析をめざすこととした。ただし、3次元データの新たな取得には多大な労力を要するため、一方では既存の2次元画像の3次元化にも取り組み、分析に必要なデータ量を確保することとした。そして、本研究を実現するため、大阪大学の文学研究科とデータビリティフロンティア機構との共創の体制を整えた。【図2】

   

2018年度に開始した研究

(1)手始めとして、約2万枚の仏顔2次元画像について、画像認識システムによく利用されている深層学習モデル(ResNet50 )を用い、各々を2048次元の位相に位置づけ、相関図を作り上げました。 【図3・4】

(2)約2万枚の画像およびその保存フォルダーの付帯情報(撮影日時、場所、名称など)によりデータベースを 構築。

(3)(1)と(2)を統合した仏顔の検索システムを開発。検索により興味深い結果も得られています。【図5・6】
金銅仏の科研では、化学分析の結果が美術史研究に新たな視点をもたらしたが、本研究でも、データ駆動型の研究手法が新たな気付きを与えてくれそうである。

   

今後の展望・期待される 効果

2018年度に開始した本研究は、ちょうど折り返し地点を迎えようとしている。実際、上記の研究成果はなお道半ばで、検索システムの精度はまだまだ低い。
しかし、これまで一方では、仏像の基準的作例のデータベースの構築、画像の付帯情報の追加を地道に進めており、今後その成果を検索システムに組み込むことで精度の向上をめざしていく。
また、新規の3 次元画像の取得も進めており(薬師寺や興福寺、永青文庫、ベトナムのダナン彫刻博物館などで計測調査を実施)、これらをもとにして、現状ではなお不十分な2次元画像の 3 次元化についても取り組み、その成果を組み込むことができれば、さらにシステムの向上が期待される。
将来的には、時代や制作地のみならず、表情や宗教的意味の解釈についてもAI活用の可能性を探っていきたい。

主な採択課題

■2013-16年度 基盤研究(A)「5~9世紀東アジアの金銅仏に関する日韓共同研究」
■2009-12年度 基盤研究(A)「科学的調査に基づく半跏思惟像の日韓共同研究」